祈りの色
昨日も「教祖様」は厳たる態度だったな。元来日に焼けない体質で、夏でも青白いと言われる肌に浮かんだ痣を見て思う。長袖でも隠せるだろうか。少々不安になりながら身支度をする。
どこかの誰かが生み出した「教祖」と「信者」というシステムは今日も廻り続けていた。どんなにねじ曲がろうが、それが救済なのだ。自分に言い聞かせる。
教祖様は自分の職は全うするようにとお導きなさったので、信者でありながらのし上がった肩書きに則る。今日は……経済誌の取材か。出版社近くの喫茶店で話しましょうと言われていたはずだ。オフィスに向かわなくていいのは少し気が楽だった。
「ーーでは、斎藤社長のポリシーは?」
それ、どこかの取材でも聞かれたな。とはさすがに返せないので笑顔で答えを返す。
「私の信者でなくても、製薬という形で救いたい。それだけです」
そんなことを言えば、インタビュアーもカメラマンも感嘆の息を漏らす。なんとか騙されてくれたようだ。
俺は、世間からは教祖だと思われている。そう思われても仕方ないし、俺自身そうだと思っていた。だが、現実は違った。
『社長は、僕に出会うために生きてきたんですよ』
ふと、教祖様の言葉が脳をよぎる。そのせいで早くなる心臓と疼く腹の奥を抑え込みながら、また一つインタビューに答えていく。その時、なぜか窓の外が気になり視線をそらした。その向こうにあったのは、鮮烈な光だった。
今まで俺が見てきた世界にはモヤがかかっていたのかと思わんばかりの光。その先にいるのは、黒とも深緑ともつかない長髪の青年。それを見て思わず立ち上がった。
「……斎藤社長?」
「…………すみません。続けましょう」
インタビュアーに一言謝り取材を受けるが、もはや上の空だった。彼は、彼こそが……俺の……?
その先の言葉が続かない。彼がそうなら、俺の今までの人生はなんだったんだ?
そう考えると、痣がズキズキと傷んだ。