「箱庭の宇宙」

あなたは目を覚した
箱庭の宇宙の中
神のまどろみの優しさに包まれて

パチンと弾けては消える肉の泡たち
その音を子守唄代わりにしていた

「ねぇ、歩けないの」
あなたの手を引くものがある
「ねぇ、話せないの」
あなたの脳を揺らす音がある
「ねぇ、あなたは誰?」

あなたは目を覚した
夕暮れ時の布団の中
虫たちのさざめき
パンザマストが街に響く

ぼたりと、目蓋の上をこぼれ落ちた何か
どろりと、黒く澱んで漂った
あぁ、その目の裏側で、鈍く光る

あなたは
見ている
眼の裏側の
自分の脳味噌を

ぐるん、からから、ことり

サイコロが振られる音
机に紙と鉛筆が擦れる音
くぐもった嗤い
歓声

あなたは目を覚した
朝日の差し込む和室で
目覚まし時計が鳴っている
小鳥のさえずり

世界は美しい
小宇宙と大宇宙のスパイラル
希望と崩壊の序曲
永久機関は完成しない
欠陥品のドミノ倒し

あなたの頭は割れそうだ

世界は美しい
理性と混沌の狭間
水面に映る月光
キュビスムとフーガ
六道輪廻を命が巡る

あなたという神話が生まれる