地方都市のコーヒーショップのチェーン店。
 高校の夏の制服姿の祐介と朝実が現れる。
 朝実は髪を後ろでしばっている。
 二人ともカバンを持ち、祐介はコーヒーカップを2つ持っている。

祐介 (空いている席を見つけて)あ、じゃああの、そこで、
朝実 あ、はい。

 祐介と朝実は座りはじめ、祐介はカップをテーブルに置く。
 1つは朝実が座ろうとしている席の方へ。

朝実 あ、ありがとうございます。
祐介 ああいえ。

 座ったあと、少し沈黙があって。

祐介 あ、どうぞ。飲んでください。
朝実 あ、はい。

 朝実は返事したものの飲まない。少し沈黙。
 祐介は朝実が飲まないのを見て、自分が先に飲むことにする。
 祐介が飲んだのを見て、遠慮がちに朝実も飲み始める。

 また少し沈黙。

祐介 これ、ちょっと思ってたのと違いました。
朝実 え?
祐介 ラテってあの、クリームみたいなやつに、チョコみたいなやつかかってるやつかなって、
朝実 モカ、ですか?
祐介 あ、モカ……、ああ、ラテじゃなくて、
朝実 写真載ってましたよ、
祐介 あ、なんかよくわかってなくて、え、ラテって?
朝実 ラテは、ミルク入ってるだけです、
祐介 あ、じゃあコーヒー牛乳か、コーヒー牛乳っていうとなんか、変ですかね、

 少し沈黙。
 祐介、もう一口飲んで。

祐介 普通のコーヒー頼んだんですね、普通ってええと、ドリップ? ですか? 女子って甘いもんが好きなのかなって、
朝実 あ、好きなんですけど、ちょっと、
祐介 あ、ダイエット中とか、あ、すみません、
朝実 ……。
祐介 あの、名前……、
朝実 あ、
祐介 あ、ええと、織田です。織田、祐介。
朝実 オダくん……、
祐介 あ、織田くんでも、祐介くんでも、あ、祐介でも、あの、だいたいクラスのやつからは祐介って呼ばれてるんで、
朝実 あ、はい、……えっと、藤山です。
祐介 フジヤマさん、
朝実 フジヤマってあの、富士山じゃなくて、
祐介 ああ、
朝実 佐藤の「藤」に、山で、フジヤマ、
祐介 あ、あぁあぁ、はい、最初からそう思ってました。

 少し沈黙。

祐介 下の名前は、
朝実 あ、朝実です。
祐介 藤山アサミさん。
朝実 はい。
祐介 じゃあ、あの、……藤山さんって呼びます、
朝実 はい。

 少し沈黙。
 朝実、カップを手に取ろうとするが、やめて、

朝実 あの、やっぱりお金(財布を取り出そうとしながら)、
祐介 ああいや、こっちから誘ったんで、ほんと、遠慮しないで、飲んで大丈夫ですから、

 少し沈黙。

朝実 びっくりしました? さっき。
祐介 ああ、びっくりっていうか、まあ、ちょっと、びっくりしました。だってそりゃ、うちの高校の制服着てる人が、飛び降りようとしてるから。
朝実 ま、あの、飛び降りる気はなかったんですけど。
祐介 でも、橋の柵乗り越えてたから、
朝実 あ、最近よくやってるんです、
祐介 ……なんで?
朝実 ……(首を軽くかしげて)なんとなく?

 少し沈黙。

朝実 あ、おかしいですよね、すみません。

 朝実、コーヒーを飲む。

祐介 いや、ありだと思います、全然。
朝実 あ、でも、落ちたら死ぬかなとか、考えますけど。

 少し沈黙。

祐介 ……藤山さん、何年生ですか? あ、僕、3年なんですけど。
朝実 あ、私もです。あの、たまに、廊下ですれ違ってたと思います。
祐介 あれ、あ、そう言われてみれば、あ、すみません、僕、あんま人の顔覚えられなくて。……あ、なんか、あれっすよね、夏休みも終わって。受験勉強とか、僕もやりたくないんですけど、でもやんなきゃいけないし、死にてー、みたいな。
朝実 (伏し目がちに少し困ったような笑顔)
祐介 ……あ、何組ですか、僕、3組です。
朝実 5組です。
祐介 あ、橋本ふみかってやついるでしょ。あのちっちゃいやつ。部活同じなんですよ。弓道部で。あ、もう引退したんですけど。バカでしょあいつ。この前、なんかパニックになってて、どうした?ってきいたら、「メガネないメガネない」って、あいつ、メガネかけながら言ってるんですよ。バカなんですよ。
朝実 あ、親友です、ふみか。
祐介 あ、なんかすみません。
朝実 いや、でもあいつバカなんで、(少し笑う)
祐介 (一緒に笑って)あ、ですよね、あいつね、
朝実 (少し笑いながら)この前、足痛い足痛い、足大きくなったかもしれないっていうから、見てみたら、靴、逆に履いてるんですよ。