王:鳥は唄い、緑は芽吹き花粉は跳梁跋扈するこの季節――いかがお過ごしかなハロルドたちよ。
ハロルド:この世界の全てが大地を祝福する季節に王に謁見すること大変喜ばしいとともに恭しく丁重にお礼申し上げます。
王:こちらこそ慎ましく感謝の意を述べよう。さて、針小棒大な前置きは抜きにして単刀直入、本題に入らせてもらおう。ここ最近あの醜悪奸邪な魔王のやつがイキり散らかしているのだ……
テレーゼ:イキり散らかしている? それはつまり散らかすようにイキっているということですか?
(やれやれ。俺は心の中でそう声を出した……
 テレーゼはいつも無駄なところに引っかかってしまう――)
王:うむ。そう考えてもらって差し支えない。ついてはこの悪逆無道な魔王をだな……
ハロルド:二度とまともに口を開くことができない体にしてくればいいわけですね?
テレーゼ:バチボコにしばいてきます。
王:いや、一見して誰もがそのような結論にいたるところではあるのだが、実のところそういう単純な話ではないのだ。
テレーゼ:そういう単純な話ではない? それはつまり私たちが王様の話を単純だと思ったことは間違いだったということですか?
王:そういうことになる。このことを詳しく説明するためにはこの前起こったできごとを
話しておかねばなるまい。先日わしが趣味の釣りを楽しんでいるとあの無為無能の魔王から恐ろしい手紙が届いたのだ。
テレーゼ:釣り……釣りというのは糸を垂らして魚が食いつくのを待つあれのことですか?
王:その通りだ。話を戻して魔王の手紙の件だが――
テレーゼ:手紙……ですか?手紙というのは……
王:お前が想像している手紙で間違いない。
テレーゼ:やはりそうなのですね……話を続けてください。
王:その手紙の内容はまさにr[悪口雑言,あっこうぞうごん]と言ったところでここで言うのも憚られるといった具合のワシへの誹謗中傷の言葉であふれておった。
テレーゼ:誹謗中傷ですか……それは裁判所に訴え出れば勝訴できる可能性もありますが……
王:うむ。ちょっと一回お前は黙っていてくれないか?
テレーゼ:黙る……それはつまり……
王:喋るのをやめるということだ。
テレーゼ:………………
(ようやく黙った……テレーゼはこういう素直なところがある――
 素直……その言葉が俺の喉に引っかかった……
 俺は素直なのだろうか――
 そんなことを考えるのは無駄なことだ……
 俺は無駄なことを考えるのはやめようか考えた――
 否……
 既に俺は無駄なことを考えるのはやめていた――)
王:釣りのr[醍醐味,だいごみ]は待つということだ。ぼーっと魚を待つだけのゆったりと流れる時間。普段の忙しさを忘れる癒しの時間なのだ。この時間を醜悪の権化たる魔王に妨害されワシは怒髪衝天といった具合で手紙を破り捨てた。この怒りをわかってもらうためにはわしと釣りの関係について言及しなければならない。わしが釣りと出会ったのは30年前……とある川で老人が忙しそうに働きまわっているわしを見つめていたところから始まる……わしはその老人に語りかけた……おじいさん釣りなんてやってなんの意味があるんですか……するとその老人はこう言うわけだ……
(16時間後)
王:おじいさん、あなたは大切な人がいるはずです。浮気なんてしてはいけませんと……私とおじいさんの仲ではありませんか……私の言葉をあなたの心に届いているはずです……
 (話が無駄に長い……俺はそう思った――
 そう思った? 俺はなぜ今更そう思ったのだろう?
 もっと早くそう思うこともできたはずだ――
 否……それは逆かもしれない……
 俺はそう思わないことだってできたのではないか――
 こんな問いを投げかけても無駄だ……
 とにかく俺は話が長いのだと思ったのだから――
 やれやれ。とにかくこの話を終わりにしてもらおう……
 そう思うよりも早く俺はそう思った――)
ハロルド:あの王様……
王:ん? どうしたハロルドよ。
ハロルド:いい加減その豚のエサにもならないような無駄な話は切り上げていただいてそろそろ出発してもよろしいでしょうか。
王:おっと……少しだけ話が長くなってしまったようだな。
ハロルド:つまり、魔王を二度とまともに口を開くことができない体にしてくればいいわけですね?
王:うむ、そういうことだ。
テレーゼ:バチボコにしばいてきます。
王:任せたぞ、ハロルドたちよ。