水が消えた村(抜粋)
むかしむかし、あるところに小さな村がありました。村の真ん中には井戸があり、村の人々はそこから水を汲んでいました。
ある日、井戸の水がなくなってしまいました。雨もめっきり降らなくなりました。村人たちは不安になりました。村長はこう言いました。
「焦るでない。こんなときのために水は蓄えてある。」
村の人々は拍手喝采しました。蓄えていた水を、みんなで少しずつ分けながら飲むことにしました。
それから七日経ちました。やはり井戸は空のまま、雨も降りません。そこで村長は言いました。
「まだ焦らなくていい。まだまだ水はあるのだから。明日にでも雨が降るさ。」
それから七日経ちました。やはり井戸は空のまま、雨も降りません。村人は言いました。
「隣村に、水をくれるように頼んでみませんか?」
村長は言いました。
「バカな。隣村の連中はバカばかりだ。水を蓄えているはずがない。今頃干上がっているはずだ。それに引き換え、ほら、私はきちんと水を蓄えておいた。」
それから七日経ちました。やはり井戸は空のまま、雨も降りません。村人は言いました。
「新しく別の井戸を掘ってはどうでしょうか? 噂に聞いたのですが、隣村では新しく井戸を掘り始めているとか。」
村長は言いました。
「バカな。そんな無駄なことする必要はない。もうすぐ雨が降るし、あの井戸の水ももうじき溢れ出すさ。ここは奇跡の村だからな。」
それから七日経ちました。村長の言うとおり村に雨が降りました。村長は言いました。
「ほうら、私の言ったとおりだ。」
奇跡の村だ、と村人たちは叫びました。村人たちは市長を尊敬しました。みんな桶をたくさん持ってきて、水を貯めました。
それから七日経ちました。あれ以来、雨は降りません。井戸も空のままです。村人は言いました。
「川から水を引いた方がいいんじゃないでしょうか?」
村長は言いました。
「バカな。あんな遠い川から水を引こうとしたら一ヶ月はかかる。そんな無駄な労働をすれば、余計にのどが渇いてしまう。」
それから七日経ちました。やはり井戸は空のまま、雨も降りません。村人は言いました。
「あの村長は何もしてくれない。あんな村長は許せない。」
別の村人が言いました。
「文句があるなら、村長から水をもらうのをやめてから言え。」
村長からもらえるのは、毎朝、升一杯分の水だけでした。しかもその水は私たちが毎日少しずつ蓄えて村長の蔵に納めていたものです。村人はそのことを言おうと思いましたが、言えませんでした。
それから七日経ちました。夏がやってきました。やはり井戸は空のまま、雨も降りません。村長は友人を集めて相談しました。
「このところ、村人たちが不安がっている。何かいい手はないかな?」
村長の友人である商人が言いました。
「風鈴があれば涼しくなります。これで不安はなくなります。」
村長は、売れ残っていた風鈴を村人に配りました。商人は、そのお礼に水を升に二十杯分ももらいました。
村長の友人の歌うたいはこう言いました。
「みんながひとつになれるような歌をつくれば、不安はなくなります。」
村長は、村長を称えみんながひとつなれるような歌をつくってもらうことにしました。歌うたいは、そのお礼に水を升に二十杯分ももらいました。その歌は流行りませんでした。
それから七日経ちました。やはり井戸は空のまま、雨も降りません。村人は言いました。
「私たちは風鈴も歌もいらない。水が欲しいんです。井戸を掘ったり、川から水をひいたりしましょう。」
村長は答えます。
「それはできないし、余計にのどが渇くだけだ。すぐに雨が降る。よし、村の人々には、なるべく外に出ないよう言っておこう。太陽の光を浴びるとのどが渇くからな。」
村の人々は、家の窓を閉め切り、外に出ないようになりました。用もなく外に出た者は、村八分にあいました。ある村人は耐えきれず隣村に逃げ込みました。その村では、新しい井戸が掘られ、川から水もひかれていました。その村の人は言いました。
「これから一年、いや、もしかすると二年は雨が降らないかもしれないからね。このくらいはしないといけないよ。今、雨が降る遠くの街から、定期的に水をもらえないか交渉しているところさ。」
村人は驚いて自分の村に戻り、こう言いました。
「あと一年、もしかすると二年は雨が降らないかもしれない。隣村の人々が言っていた。やはり井戸を掘ろう。川から水をひこう。隣村は既にやっている。」
他の村人は言いました。
「そんなに長いこと雨が降らないわけがない。村長がもうすぐ雨が降ると言っている。お前は村長より隣村のやつの言葉を信じるのか?」