『白虎と雪見酒』


子の刻が過ぎ、人々が新たな年を迎えたその日の夜。
既に除夜の鐘も鳴り終わり、暗闇の空から降りしきる雪以外、全てのものが寝静まった丑三つ時。
人里離れた山頂寺の屋根にて、一人の人間離れした青年と美しい毛並みの白虎が、悠々とした面持ちでチラチラ舞い降る雪を眺めていた。
時折吹いてくる冷たい風に、透ける雪と見紛う程の白銀がサラサラと耳元で靡き、同じく雪の色を想わせる彼の肌とその上を這いずる不穏な刺青を、新たに降りしきる雪が更に白く染め上げていく。
朱色の盃に揺れる透明な酒を、銀の睫毛に縁取られた深紅の双眸がゆったりと眺めて瞬きする。
夜と雪に紛れてしまうであろう景色の中、一人と一匹の鮮やかな緋色だけが、意志を持った玉石の様に深く爛々と息づいていた。

「どっちかっつーと花や月を眺める方が好みだが、雪見酒ってのも中々どうして悪くねぇもんだ。
…なぁ、アンタもそう思わねぇか?」

そう告げて手慰みに耳の裏を撫でて来る彼の手に、純白に黒の縞模様という上等な毛皮を纏った隣人が心地良さそうに喉を鳴らす。
グイ…と傾けられる盃の動きに合わせ、僅かに反らされた白い喉が艶めかしく上下し、見る者さえ潤す様に酒を嚥下した。
見下ろす街に灯りはなく、雪は絶えず夜の世界を彩っていく。

初日の出の光を拝むには、まだ夜が深い。



END