※R18描写はありませんが、それを匂わせるような描写があります

◎(必須で表現):
和風/性産業/閉鎖的な雰囲気/大人の世界に翻弄される子供/男娼/姉たちが先に成長していく姿

○(可能な限り表現):
たまに主人公視点/子供なりの気付き、行動力/

×(NG):
台詞や地の文で外国由来語の使用(「チャンスだ」等)

◆◆◆

『色街に生まれて』

都の外れ。
周囲から切り離されたような雰囲気が流れるその街には、無数の屋敷や建物がひしめき合っている。

昼は静まり返っているが、夕方になればどこからか化粧品の匂いが漂い始め、夜になれば都の各地からやって来た客たちで賑わい、楽しそうな会話が四方から聞こえる。
そんな街の奥の、古い屋敷の二階。その更に隅にある八畳程度の和室。

「あっ。また足の裏を痛くしてしまったわっ……」
いつからそこにあるのか。ずっと前から使い古されている畳は、あちこちが傷んでいる。
そして、布団を三組敷けばそれだけで部屋は手狭になってしまい、畳もほとんど隠れる。

そんな部屋の、建て付けの悪い窓を開けたらすぐ視界に入る桜の木は、手を伸ばせば枝が手に届きそうなほど近くにあり、春になれば奇麗な花を咲かせる。しかし今は、その季節には未だ遠く肌寒い。
そんな時季でも裸足の少女コトは、何度目の経験か、畳で擦り剥いて足裏に新しい生傷を作ってしまった。

そんな部屋に、幼い三人の娘が生活している。
長女トヨ、次女フミ、三女コト。三人とも、年齢は十にも満たない。
艶のある真っ黒な前髪を一文字に切り揃えた、同じような髪型をしている姉妹。

自分たちの世話をしてくれる、祖母のような存在の「お定」からは、
「お前たちは、お母さんによく似ているね」
と言われるが、コトは自分の顔が姉たちと似ているとは思えなかった。
髪型は、なぜかいつも同じにされるけれど。

コトは物心ついた時からこの建物の中にいる。父親が誰なのかは知らない。
なんでも知っているお定なら、父が誰なのか知っていそうだけれど、なんとなく、聞いたらいけないような気がして、黙っている。

母親は、たまに会いに来てくれる。
いつも疲れた顔をしているような気がするが、優しく笑いながら話を聞いてくれる母のことが、コトは大好きだった。

ただ立っているだけ、視線を合わせるために屈んでくれるだけで。長い睫毛と共に大きな目を瞬きさせるだけで。
母の動きの一つ一つが格好良くて、綺麗な人だと思った。
お定に「コトの目はお母さんに似ている」と言われたのがとても嬉しく感じ、部屋にある鏡を何度も見てしまう。

普段は大人しい次女フミも、母が来れば嬉しそうに抱き着いて甘える。
妹たちに対して威張ることもある長女トヨも、母の喋り方や振る舞いを真似しているように見えることがあるため、きっと母が好きなのだろう。

ただ、コトたちが、
「また背が伸びたよ」
と嬉しそうに言っても、母はあまり喜んでくれない。
姉妹が成長することを、悲しく感じているような反応をする。
そして、コトたちの話にはなんでもうんうんと頷いて聞いてくれるが、母が自分の話をしてくれることは無い。

そして、半刻もすればまたどこかに立ち去ってしまう。
その後を追うのはいけないことだと、お定からも母本人からも言われている。

この街から一度も出たことが無く、この屋敷からすらほとんど出たことがないコトだが、以前に長女トヨから、
「男の子が生まれたら、あのお屋敷に行くのよ」
とこっそり教えてもらった。
その時トヨが指差していたのは、部屋の窓から少しだけ見える、やや離れた位置にある、奇麗な瓦屋根の立派な屋敷。桜の木の向こうに、遠巻きに見える建物。

コトが目を頑張って細めて見ると、確かに男の子たちが……知らない男の人たちがたくさんいる。
「もしかして、あの人たちの誰かが自分のお兄さんか弟なのかな」
と思ったが、これもまたあまり触れてはいけないことのような気がして、姉たちにすら言えずに黙っている。

いつからか、その屋敷を眺めることがコトの習慣になってしまった。
トヨに見つかると「駄目だよ」と怒られるので、こっそりと。

「……あっ」

ある日、いつものように屋敷を見ていると、コトと同い年くらいの男の子と目が合った。