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リクエスト

◎アイドル/一人称視点/自己愛

眩しいスポットライトが向けられたステージ。左右の天才に今日も挟まれている。
この2人に必死についていく、頑張っている私を皆、応援してくれる。
貼り付けた笑顔を「好き」「可愛い」と言って消費してくれる。

ただ、女の子にとって可愛いと言われることは、敵を作ることでもある。
羨望はすぐに嫉妬に変わるから。

前を走る2人の背中に手を伸ばし続ければ、いつか手が届く……と思っていたが、あるのは壁だということを知った。それも高くて厚く、冷たい。
同じユニットでも、手を差し伸べて助け合う存在ではない。
才能の差を見せつけられる晒し者みたいだと思ってしまってから、私の心に影が落ちた。

女の子が集まれば自然と、ぼんやりとした序列みたいなものが生まれる。
誰もハッキリとは言わないけど、どっちが上で下か、ちゃんと決まっている。
私は明確に下だった。

心の影は最初、胸の中心で小さな点ほどの大きさをしていた気がしたが、徐々に大きくなっていき、身体をじわじわと蝕み、やがて頭の方までやってきて、顔に影を落とし始める。

見開いた目と、上げた口角で笑顔を必死に作りながら、歌って踊る。幾つもの動作を同時に行う。
ファンが向けてくれる笑顔はいつもと変わらないはずなのに、この影のせいで、何故かどれも作られた表情、仮面のように見える。

そんなことが脳裏を過ぎったせいか、ステップを僅かに間違えた。
ストン、と床に置いた右足先の出し方を間違えた。1秒にも満たない僅かな違い。
多分誰も気付いていない。その時、

(今転んだら『ライブ中に怪我した可哀想な私』が出来上がる)

言葉や表情でどんなに取り繕うより「可哀想」な私になれる。
そう思い、全てを諦めることが出来た。
今まで「常に完璧であれ」と思っていたのに、その正反対の考え。

曲の重低音が四方から聞こえる中で、上半身の体重を足先に掛ける。
自分の身体の内側から「パキッ」と音がして、頭に響く。

「っ……!!」

足先と膝に、遅れて激痛がやってくる。
そのままどさりとステージ上に倒れ込むと、周囲の空気が凍り付き、音楽が止まり、代わりに悲鳴が鳴り響いた。
スポットライトは、倒れ込んだ私を晒すための光に変わる。

救急車内で浴びせられた照明。スポットライトよりも眩しい。
そして、医療機器に囲まれた無機質なこの光の方が、私に合っていると思ってしまった。



病室でネットを開く。
患部は痛むけれど、この怪我があるからこそ心配の声が向けられることを思えば、嫌ではない。
顔以外なら、どこが傷付いても構わない。

SNSであれだけ私の悪口を言っていた人たちも、いざ怪我をしたら流石に気の毒に感じたのか、
弱っている人間に追い打ちを掛ければ自分の方が危険になると感じたのか、厳しい声は止まった。

同時に「早く戻ってきて」「また歌が聴きたい!」というコメントがたくさん寄せられている。
……期待通りの言葉。

「ファンに何か発信するのはもう少し後になってから」と言われている。
そのまま、皆の中で都合の良い私を……可哀想な私を想像して欲しい。

他人から向けられる褒め言葉や心配の言葉は、いくら浴びても満足できない。
しかし少しでも棘のある言葉には、実際に感じた数倍の痛みを受け取ってしまい、いつまでも心と体に残る。
小さい頃からずっと、そんな棘が身体と心にずっと残り続けたから、今こんな風になってしまった。



数か月後。怪我が治った頃。

「はぁ、治っちゃった」

誰もいない練習用ステージの上に立つ。
音響も眩しいライトも、手拍子も笑顔もなにも無い。

身に染みついたダンスの振り付けや歌詞は、今でも勝手に手足と口から出てくる。
怪我のきっかけになったステップも流れるようにこなす。

そんな、誰もいない舞台で踊った時。楽しい、と思ってしまった。
「常に完璧であれ」という言葉に縛られていない私の笑顔は、とても自然なものだった。

「『いつも完璧!』って言うけどさ。皆、一瞬でも完璧だったことあるのかよ、ばーか」

誰にも見られていない場所でしか輝けないなんて、アイドルじゃない。
でもアイドルなんて、それを自称しているくらいが一番楽しい。
都合良くアイドルになったり、普通の女の子になったり、演じ分けられるくらいが楽しいんだ。
加害者の振りをした被害者くらい、居心地が良い。

やっぱり私は、未だ演者だ。

これはあの2人への、私なりの仕返しでもある。

あぁ、まだ壊し足りない。
あの2人は、まだ失えるもんね。