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◆自首
さっき、母親を殺してきました。
僕は生まれてからずっと家に監禁されてました。
年齢は……多分……13歳だと思います。

◆母なる人
5歳から14歳の男女の孤児が数十人集まった、とある施設。
彼ら彼女らを引き取った男性が父親役を担っており、その男性は孤児たちから「お父さん」と呼ばれても否定しない。

ある日突然、その男性は、見知らぬ大人の女性を孤児たちに紹介した。
常に微笑みを絶やさないその女性は、孤児たちにとっての母親になりたいと言う。
ふたりは夫婦なのか、どういう関係なのかは分からない。

元々、この施設にいる人間に対して個人的な事情の探り合いは禁忌だという雰囲気があり、皆、子供なりにそんな空気を理解していた。

そんな、急な「母親」の登場によって、それまで管理者の男性を「お父さん」と呼ぶなどくだらないと思っていた少年たちの雰囲気が変わる。
女の子たちは揃って「大人になったらお母さんみたいになりたい」と言って慕っているが、少年たちが抱いているのは、そんな真っすぐで素直な感情ではない。

本当は「お母さん」と呼べるのであれば呼びたい。しかし、少年たちは誰もそう呼べない。
近くにいる時に感じる甘い匂いも、ふと触れられた時の柔らかい感触も、初めて知ったもの。
もっと幼い頃には確かに抱いていたが、いつからか忘れていた、あるいは考えないようにしていた、母性の渇望。
そして、恋慕の情。
そんな複雑な感情が湧いてくる。

今、施設の年長組にあたる、おおよそ12歳以上の少年たちは全員、同じようなことを考えているだろう。


◆踊り子
街のはずれにある広場に、たまに踊り子の女性がやってきて、街の皆に踊りを披露する。
高いステージに立って披露されるその踊りは、その幼い女の子の目にはとても魅力的に映った。

いつも、多くの人々に囲まれて踊っている踊り子の女性。
その見た目も衣装も動きも、奇麗で、可愛くて、格好良い。
女の子はそんな姿に密かに憧れ、部屋で見よう見まねで踊っていた。

踊りを見られるのはなんとなく恥ずかしいことだと思い、誰にも言えなかったし、いつもステージに立っているあの女性と何度か目が合っても、微笑み返してくれることは無かったが。

時は流れて「女の子」から「少女」と言える年齢になった頃。
踊り子が街へ来て踊っている本当の理由を知ってしまった。

踊りを見ている人間が、大人の男性しかいない理由も、踊り終えると宿屋街の方に去って行く理由も知った。
そもそも「踊り子」というのは表向きの呼称であることも。

あの時憧れていた女性が来なくなって久しい。
いつだったか、目が合っても笑いかけてくれることが無かったのは「あなたが見るようなものではない」と言いたかったのだろうか。

ただ、少女の心に芽生えた憧れは消えない。
独学ではあるが練習を続けたことで、それなりに踊れるようになってしまっている。

少女は、これからも「踊り子」を目指すべきか悩んでいる。


◆貸し出し村
・人口500人程度の村。
・年に一度、既婚者を対象に、各配偶者の交換行為が行われる。
・遥か昔から伝わる風習であり、常に、夫婦間の新鮮さを忘れないことが目的である。

ルール等
※破ったところで罰則は無いが、破ることはかなり恥ずかしいこととされる
・1日目の18:00に、各家の妻が、事前に指定された別の家=3日間を過ごす相手となる男の家 に向かう。翌々日の18:00までその家から出ずに2人で共に過ごし、その後は本来の夫が待つ自宅に戻っていく。
・その3日間で起きたことは、本来の夫婦間をはじめ、他人に口外してはならない。
・後に子供が生まれた際は、余計な詮索はせずに各家庭の子供として育てること。
・組み合わせは、未婚者たちが集って行うクジ引きで決まる。公開の場で行われるので不正や恣意的な組み合わせは不可能。
・狭い村社会なので人間関係が濃く、嫌いな人間同士や親類同士、元恋人同士などの組み合わせが発生することがある。しかし決まった組み合わせは絶対であり、拒否できない。
・「3日間一緒にいたが何もしなかった」という過ごし方も可能だが、どちらかが行為を求めれば、もう一方は拒否できない。
・3日間を過ごした相手との関係を引きずることは不可。(引きずったところで、村社会なのですぐに分かる)
・この3日間、子供たちは学校行事等を建前に離れた場所に集められるため、各家庭には帰らない。
※結婚が出来る年齢である15歳になった子には、この風習の存在が知らされる。